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2025.11.29 その他のトラブル

東京高裁「合憲」判決(同性婚法の立法不作為)の真意を読む―違憲へのカウントダウンと東亜由美裁判長のメッセージ

令和7年11月28日、東京高裁(東亜由美裁判長)は、同性婚を認めない現行規定を「合憲」とする判決を下しました。

多くの高裁で「違憲」「違憲状態」判決が続く中での「合憲」判断に対し、落胆の声も聞かれます。しかし、この判決を単に「保守的でダメな判決」と断じるのは早計です。

判決の全文を読み解くと、そこには裁判所から国会への**「強烈な最後通告」**が隠されていることが分かります。

1. 「合憲」判断の裏にある「違憲へのカウントダウン」

 

本判決は、現状を合憲としながらも、国会の怠慢を厳しく指摘しています。 「LGBT理解増進法」がありながら、国が具体的な施策を打っていない現状を批判し、**「このままの状況が続けば、憲法違反の問題を生じることが避けられない」**と明言しました。

これは、「今はギリギリ合憲とするが、これ以上議論を先延ばしにするなら、次は確実に違憲とする」という、司法からの**「期限付きのメッセージ」**に他なりません。「さっさと議論して立法しなさい」という強烈なプレッシャーを、合憲という結論の中に込めたのです。

2. 表面的な「結論」だけで評価してはいけない

 

私たちはつい、「違憲判決=革新的で素晴らしい」「合憲判決=保守的で臆病」という二元論で語ってしまいがちです。

しかし、三人の裁判官が熟議を重ね、一人の裁判長が全責任を負って宣言する判決には、その結論に至るまでの苦悩と論理が詰まっています。今回の東裁判長の判断は、司法権の独立と立法裁量の尊重というバランスを取りつつ、実質的に原告らの権利救済を促すための、極めて戦略的かつ勇気ある判断であったとも読み取れます。

3. 面倒でも「全文」を読む責任

 

ニュースの見出しだけを見て、裁判所を批判したり称賛したりすることは簡単です。しかし、それでは判決の本質は見えません。

東亜由美裁判長の名前を意識し、どのような論理構成で国民に語り掛けているのか。その真意を汲み取るためには、面倒でも、しんどくても、判決の全文(少なくとも要旨全文)を読む必要があります。そこには、主文(結論)だけでは伝わらない、裁判官たちの人間としての葛藤と、法による支配への矜持が刻まれているからです。


【解説】東裁判長との対話で読み解く判決の論理

 

今回の判決は非常に論理構成が厳密です。「なぜ合憲なのに、国に厳しいのか?」「なぜ個人の尊厳の問題が認められなかったのか?」という疑問を解消するため、判決の論理順序に沿って、私(伊藤)が東裁判長に問いかける形式で整理しました。

(※注:本対話は、読者の皆様に判決文の論理構成を分かりやすく解説するために、弁護士伊藤が判決内容に基づき想像して構成したものです。実際に裁判官と対話を行った記録ではありません。)

私(伊藤):  今回の判決、結論は「合憲」でしたが、国に対しては随分と厳しいことを言っていますね。特に「LGBT理解増進法」について触れた部分は印象的でした。

裁判長(判決の論理):  ええ。国会での検討状況を見ると、政府は「慎重な検討を要する」と言い続けていますが、その検討が開始された証拠すらありません。もし、国がLGBT理解増進法に基づいて、国民の理解を増進する施策を「的確に」実施していれば、原告の方々が現在のような不利益な状況に置かれることはなかったはずです。

私:  つまり、国がサボっているから、今の苦しみがあるのだと?

裁判長:  その通りです。関係行政機関が漫然と施策を怠り、不当な差別的状況を放置しているとして、国家賠償法上「違法」となる可能性すらある、と踏み込んで指摘しました。

私:  では、憲法判断の核心に移りましょう。まず**24条1項(婚姻の自由)**です。「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し…」という規定。これは同性婚を保障していないのですか?

裁判長:  はい。憲法制定当時の社会通念等を考えると、ここで言う「婚姻」とは、歴史的・伝統的な「異性間の結合」を指していると解されます。ですから、同性間の結合は24条の「婚姻」には含まれず、同性婚を認めていない現状も24条1項には違反しません。

私:  次に**14条(法の下の平等)**です。異性愛者だけが結婚できて、同性愛者ができないのは「不当な差別」ではないのですか?

裁判長:  現時点では「合憲」と判断しました。  現行の法律婚制度は、「一の夫婦とその間の子」を社会の基礎単位として想定し、子の出生環境を整えるという目的で設計されています。この設計自体には今なお合理性があり、区別することには根拠があると考えたからです。また、パートナーシップ制度などの代替手段も広がっていますから、直ちに14条違反とまでは言えません。

私:  ここからが私の疑問の核心です。**24条2項(個人の尊厳)**についてです。結婚できないことで当事者がこれほど苦しんでいるのに、「個人の尊厳」を踏みにじっていることにはならないのですか?

裁判長:  そこは論理の順序が重要です。  先ほど述べた通り、私たちはまず「24条1項(定義)に反しない」、そして「14条(平等)にも反しない(合理的な根拠がある)」と判断しました。  この2つの判断が前提にある以上、国会の立法裁量は広く認められることになります。 したがって、現状の制度が「個人の尊厳」に照らして合理性を欠き、国会の裁量の範囲を逸脱しているとまでは言えない――つまり、24条2項にも違反しないという結論になるのです。

私:  なるほど。「24条1項と14条でシロ(合憲)だから、自動的に24条2項もシロになる」というロジックですね。では、国会は何もしなくていいということですか?

裁判長:  いいえ、決してそうではありません。  判決の最後でも述べましたが、**「このままの状況が続けば、憲法13条、14条1項との関係で憲法違反の問題を生じることが避けられない」**のです。  今はまだ「裁量の範囲内」ですが、議論を放置すればその範囲を超えますよ、という司法から国会への「猶予付きの最後通告」なのです。


資料:判決要旨 全文

 

最後に、今回の判決の正確な内容を確認したい方のために、判決要旨の全文を掲載します。

第1 事件の表示 判決言渡し: 令和7年11月28日午前11時(101号法廷) 事件番号: 令和6年(ネ)第1861号 「結婚の自由をすべての人に」訴訟控訴事件 (原審・東京地方裁判所令和3年(ワ)第7645号) 担当部: 東京高等裁判所第24民事部(裁判長裁判官 東 亜由美) 当事者:

  • 控訴人ら(1審原告):山縣真矢 外 7名

  • 被控訴人(1審被告):国

第2 主文

  1. 本件各控訴をいずれも棄却する。

  2. 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第3 事実及び理由(判決要旨)

1 事案の要旨 本件は、法律上の性別を同じくする者との間で法律婚制度を利用することを希望する控訴人らが、民法及び戸籍法の諸規定(本件諸規定)が現行の法律婚制度を利用できる者を法律上異性の者同士に限定しているのは、憲法24条1項、2項、14条1項に適合しておらず、これらの条項に違反する憲法違反があるにもかかわらず、被控訴人が、正当な理由なく長期にわたって、同性の者同士の婚姻を可能とする立法措置を講ずるべき義務を怠っていることが国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるなどと主張して、被控訴人に対し、同項に基づき、慰謝料の支払を求める事案である。 原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として控訴した。

2 国家賠償法上の違法の意義と立法に関して控訴人らが置かれている状況について (1) 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。 (2) ところで、性自認及び性的指向(性自認等)は、今日、人の重要な個性であり、性自認等に従った法令上の取扱いを受けることは、人の人格的存在と結びついた重要な法的利益である。また、今日では、異性の者同士に加え、同性の者同士が、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む人的結合関係は、一つの家族の姿として社会的承認を受けていると認められる。このような同性の者同士の結合関係は、いわば「同性の者同士の事実婚」とでも呼ぶべき性質のものである。 (3) 令和5年制定のLGBT理解増進法の規定内容からすると、この状況は、性自認等の多様性に対する国民の理解不足に由来するところが大きいものと考えられる。そして、国際的には、この種の理解不足に由来する差別を解消する方策の一つとして、同性の者同士に係る家族に関する法制度を創設し、その関係を公証する取組が進められ、我が国に対しても、そのような法制度の創設が勧告されている。 ところが、我が国における立法の検討状況をみると、法律婚制度については、社会状況の変化を踏まえた改正が随時行われる一方で、同性の者同士に係る家族に関する法制度については、少なくとも約10年前から、政府において、国会等で慎重な検討を要すると政府が答弁等をしながら、その慎重な検討を開始したことをうかがわせる証拠がなく、国会においては、法律案が提出されても、審議が開始されないという状況にある。このことからは、かえってその慎重な検討は開始されていないこともうかがえるのであって、その検討状況は、客観的にみて、控訴人らが性自認等に従った法制度上の取扱いを受けるという人格的存在と結びついた重要な法的利益が十分に尊重されているとは評し難い状況にある。 (4) 以上の諸点に照らすと、本件の主張立証の限りでは、被控訴人の関係行政機関が、LGBT理解増進法に基づき、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策を的確に実施していれば、このような状況が生じるとは考えられない。そうであるとすれば、当該施策を実施する権限を有する関係行政機関の公務員が、漫然と当該施策の実施を怠り、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別が生ずる状況を放置しているものとして、控訴人らとの関係で、国家賠償法1条1項の適用上違法となる場合もあり得るというべきである。

3 控訴人らが主張する国家賠償法上の違法の有無について (1) 控訴人らが主張する国家賠償法上の違法とその判断枠組み しかし、控訴人らが本件において主張する国家賠償法上の違法は、本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在が憲法24条1項、2項、14条1項に違反することを前提に、その立法又はそれを是正しない立法不作為が、国家賠償法上違法であるというものである。そして、弁論主義の下で当裁判所が判断できるのは、この違法の有無のみである。 (2) 本件諸規定が憲法24条1項に違反するか(争点(1))について 憲法24条は、憲法改正当時、社会的承認を受けていた歴史的、伝統的な婚姻形態である両性、すなわち異性の者同士が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む人的結合関係を「婚姻」として定めたものと解される。同性の者同士の事実婚は、憲法改正後に家族として社会的承認を受けた人的結合関係であり、我が国に限って、同性の者同士に係る家族に関する法制度の内容が、直ちに憲法24条1項の婚姻と全く同一のものに定まり、国会による制度内容の選択決定が憲法上許されないと解する合理的な理由は見当たらない。 よって、本件諸規定が憲法24条1項に違反する旨の控訴人らの主張は、採用することができない。

(3) 本件諸規定が憲法14条1項に違反するか(争点(2))について ア 本件区別取扱いの合理性について 現行の法律婚制度は、「一の夫婦とその間の子」の結合体を、社会の基礎的な構成単位となる基本的な家族の姿として想定するという制度設計(本件制度設計)に立って構築されたものと解される。生まれる子の側からみれば、100%近くが夫婦の間の子として出生して養育され、「一の夫婦とその間の子」として社会生活を営んでいる。このような現状において、本件制度設計自体はなお合理的なものであり、具体的な婚姻の要件及び効果を定めることには、現在でもなお合理性が認められる。 イ 同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在について 同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在に関しては、①同性の者同士の事実婚として法的に保護されること、②関連する法制度の趣旨に即して個別に適用ないし類推適用を受けることはでき、また、婚姻の重要効果の一部については契約で代替する方法があること、③多くの自治体がパートナーシップ制度を導入していること等の事情も指摘することができる。 ウ 小括 以上の事情を総合すると、同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在を原因として本件区別取扱いが生じていることについては、全体としてはなお、憲法24条2項が立法府に与えた裁量権を考慮した場合に、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づかないとまで断じることが困難であり、憲法14条1項に違反するとまではいえない。

(4) 本件諸規定が憲法24条2項に違反するか(争点(3))について 争点(1)及び争点(2)において説示したとおり、本件諸規定は、憲法24条1項、14条1項に違反しない。これまで説示したような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるということはできない。 したがって、本件諸規定は、憲法24条2項に違反するものではない。

(5) 小括 本件諸規定又は同性の者同士に係る家族に関する法制度の不存在は、控訴人らが主張する憲法24条1項、2項、14条1項に違反するとまで断じられない。取り分け、国会との関係では、審議は開始されないものの、複数回、法律案が提出され、審議が求められている。憲法が立法裁量に委ねた事柄について、国会内で審議が求められている以上、憲法は、国会がその審議を尽くした上で、同性の者同士に係る家族に関する法制度の選択決定をすることを求めていると解される。 人が性自認等に従った法令上の取扱いを受けることは、人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であるから、このままの状況が続けば、憲法13条、14条1項との関係で憲法違反の問題を生じることが避けられないが、現時点では、まずは国会内で審議が尽くされるべきであり、直ちに前記の立法不作為が前記のような国家賠償法上違法の評価を受ける場合に当たるとはいえない。 したがって、控訴人らが主張する国家賠償法上の違法があるとは認められない。

4 結論 そうすると、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

弁護士伊藤拓

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