仮差押命令を受けた場合の対抗措置は、大きく分けると、保全異議と保全取消があります。どこでどうやって争っていくのかは場面によりけりです。戦略は多面的に検討する必要があります。保全決定自体を争うことが必要な場合もあれば、早期の和解を図り、保全取消を求めることが有益な場合があります。
保全異議と保全取消の違いを以下のとおりまとめます。
なお、保全異議審においては、被保全債権の存在と保全の必要性を「疎明」する必要があり、「証明」ではないことにも注意が必要です。
刑事における証明も含めて、以下のとおり証明と疎明の違いを整理します。
項目 |
レベル3:刑事訴訟の「証明」 |
レベル2:民事訴訟の「証明」 |
レベル1:「疎明」 |
求められる心証 |
合理的な疑いを超える確信 |
高度の蓋然性 |
一応確からしいという推測 |
イメージ |
99.9%間違いない |
8割方、確からしい |
たぶん本当だろう |
主な使用場面 |
有罪判決 |
通常の民事判決 |
仮差押え・仮処分など |
保全異議:「そもそも、あの決定はおかしかった!」と争う手続き
保全異議は、裁判所が出した保全命令の決定そのものが、出された時点で間違っていたと主張する手続きです。
- 目的: 保全命令が出された時点に遡って、裁判所の判断の当否を改めて審理してもらうこと。
- イメージ: スポーツの審判の判定に対し、「今の判定はルール適用を誤っている!」と、その場で抗議するようなものです。
- 主な主張:
- 「債権者が主張するような権利(被保全権利)は元々存在しない」
- 「財産を隠したりする恐れ(保全の必要性)はなかった」
- 「提出された証拠は不十分だった」
つまり、過去(保全命令が出た時)の判断を争点とします。
保全取消:「その後の状況が変わったので、もう不要です!」と求める手続き
保全取消は、保全命令が出されたこと自体は一旦受け入れた上で、その後の事情の変化によって、もはや保全命令を維持する必要がなくなったと主張する手続きです。
- 目的: 保全命令が出された後に生じた新しい事実を理由に、命令の効力を失わせること。
- イメージ: 雨が降ってきたので傘をさしていたが、その後、雨がやんだので「もう傘は必要ない」と判断するようなものです。
- 主な理由:
- 事情の変更: 請求されていたお金を全額支払った、債権者と和解が成立したなど。
- 債権者の手続きの遅延: 裁判所が「〇日以内に本裁判を起こしなさい」と命じたのに、債権者がその期間内に訴訟を起こさなかった場合(本案の不提起)。
- 担保の提供: 債権者が差し押さえたい金額と同額のお金(解放金)を法務局に預けることで、「損害は担保されるので、とりあえず仮差押えを解いてほしい」と求める場合。
つまり、現在(申立てをする時)の状況を争点とします。
まとめ:違いが一目でわかる比較表