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【弁護士コラム】大家さんから突然の家賃値上げ通知。どう対応する?
皆様こんにちは。弁護士の伊藤拓です。
最近、食料品やガソリンなど、様々なモノの値段が上がっていることを実感されている方も多いのではないでしょうか。総務省が発表した2025年8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年の同じ月と比べて2.7%上昇しており、物価上昇の波が続いています。
そして、この物価上昇の波は、私たちが住む「家」にも及んでいます。
特に福岡市では、不動産価格の高騰が顕著です。令和7年の地価調査によると、福岡市の住宅地の地価は、この10年間で市全体で平均1.9倍以上、商業地では2.3倍弱にまで上昇しています。住宅地の地価上昇率7.2%は、全国の都道府県庁所在地の中で東京23区に次ぐ第2位という高い水準です。
こうした地価の上昇は、当然ながら賃貸物件の家賃相場にも影響を与えます。福岡市博多区では、賃貸マンションの家賃がここ3年で12.8%も上昇しているというデータもあります。市内では、この数年でファミリータイプの家賃が1〜2万円ほど上がり、単身者向けでも1万円以上相場が上昇している地区も見られます。
このような状況を背景に、最近、私の事務所には「大家さんや管理会社から、一方的に家賃を値上げするという通知が届いた」というご相談が急増しています。通知される金額は数千円程度と少額なケースが多いようです。
しかし、ここで知っておいていただきたい重要なことがあります。それは、賃料の増額は、法律上、貸主(大家さん)と借主(あなた)の双方の合意がなければ成立しないということです。
貸主が経済情勢の変動などを理由に家賃の増額を求める権利は、借地借家法という法律で認められています。しかし、それはあくまで「増額を請求する権利」であり、貸主が一方的に賃料を決定できるわけではありません。したがって、合意がない中で一方的に値上げを通知したとしても、法的な効力は無いのです。
「法的に無効なら、放っておいても大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、そこには注意が必要です。
値上げ通知を無視し、増額された家賃が銀行口座から引き落とされている状態を長期間放置してしまうと、「増額に黙って同意したもの(黙示の承認)」とみなされてしまう恐れがあります。一度合意したとみなされると、後からその決定を覆すことは非常に困難になります。
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。対応は非常にシンプルです。
まずは、ご自身の意思をはっきりと形に残る方法で相手に伝えることが何よりも重要です。
先日、行きつけのカフェの店員さんにこの話をしたところ、「自分だったら怖くてそんな通知は出せないかもしれない」とおっしゃっていました。お気持ちはよく分かります。家を借りている立場からすれば、「大家さんに歯向かって、後で何かされたらどうしよう」と不安になるのは当然のことでしょう。
しかし、この点については全く心配いりません。
「借地借家法」という法律は、弱い立場になりがちな借主(賃借人)を強く守るために作られています。つまり、貸主から不当な要求をされても、借主には、それをきちんと跳ね返せる力と権限が法律によって与えられていると考えてください。
月に5,000円の値上げだとしても、年間では60,000円、契約更新までの2年間では120,000円もの大きな負担増になります。それが法的に正当で、納得できる理由のあるものならば受け入れるしかありませんが、そうでないならば、ご自身の権利をきちんと主張するべきだと私は考えます。
ご自身で書面を作成することに不安がある方や、管理会社とのやり取りにストレスを感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合は、ぜひ私たち専門家にご相談ください。法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、収入などの条件を満たす方は、**2,200円(税込)**という費用で、弁護士があなたに代わって通知書を作成・送付することが可能です。
突然の家賃値上げ通知に、一人で悩む必要はありません。まずはお気軽にご連絡いただき、あなたの状況をお聞かせください。
なお、このお話は、個人が居住しており、管理会社から一方的に通知を出された場合の話です。企業間取引についてはこの限りではありませんので、ご承知おきください。
弁護士 伊 藤 拓