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【弁護士コラム】遺産500万円に対し生命保険金が3000万円!兄弟間の相続トラブルと遺留分への防衛策
親が亡くなり、いざ相続が始まると「一部の相続人だけが多額の生命保険金を受け取っていた」というケースでトラブルになることが少なくありません。
今回は、子が兄弟2人だった場合に、「遺産が500万円に対して、長男が受け取った生命保険金が3000万円」という極端に割合が高いケースを例に、弟(次男)から遺産分割や遺留分を求められた際の計算方法と、長男側からの強力な反論アプローチについて分かりやすく解説します。
相談者(長男):「先生、父が亡くなり遺産が預金500万円残りました。相続人は私と弟の2人です。遺産とは別に、私が受取人に指定されていた父の生命保険金3000万円を受け取ったのですが、弟が『不公平だから遺産は全部自分がもらう!それでも足りないから不足分を払え!』と怒っています。どうなるのでしょうか?」
弁護士:「金額にかなり偏りがあるケースですね。このような場合、法律上の『原則』と『例外』が複雑に絡み合います。一つずつ分かりやすく整理していきましょう。」
相談者:「そもそも生命保険金って、受取人である私の固有の財産ですよね? 弟と分ける計算に含めないといけないんですか?」
弁護士:「おっしゃる通り、原則として死亡保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の対象や『特別受益(生前贈与などと同じ扱い)』には当たりません。しかし、例外があるんです。」
相談者:「例外ですか?」
弁護士:「はい。最高裁の判断によれば、保険金と他の遺産との比率を見て、相続人間に到底容認できないほど著しい不公平が生じる場合は、『特段の事情』があるとして、例外的に保険金を特別受益に準じて計算に含めることになります。これを『持戻し』と呼びます。今回のケースは遺産500万円に対して保険金が3000万円と6倍に達するため、この例外が認められる可能性が高いと考えられます。」
相談者:「そうすると、遺産の分け方はどうなるんですか?」
弁護士:「計算上、みなし相続財産は【遺産500万円 + 保険金3000万円 = 3500万円】となります。お二人の本来の相続分は半分ずつの1750万円ずつです。しかし、あなたは既に3000万円を受け取っているため、残りの遺産500万円からは何も受け取れません。結果として、次男さんが遺産の500万円をすべて取得する形で遺産分割協議が終了することになります。」
相談者:「弟が預金500万円を全額もらうのは仕方ないとして……弟の言う『不足分を払え』とはどういうことですか?」
弁護士:「それは『遺留分侵害額請求』ですね。次男さんには、最低限保障された遺産の取り分(遺留分)があります。もし、先ほどの『持戻し』を前提にして遺留分を計算すると、次のような結果になります。」
弁護士:「つまり、計算上は次男さんからあなたに対して、375万円を支払うよう請求が来る可能性があるということです。」
相談者:「えっ、さらに375万円も払わないといけないんですか!? 親の介護も私一人でずっとやってきたのに、なんだか納得いきません!」
弁護士:「諦めるのはまだ早いです。もし次男さんから375万円を請求された場合、長男側として大きく分けて2つの反論アプローチが考えられます。」
方法①:「特段の事情」を否定し、特別受益ではないと主張する
弁護士:「裁判所は金額の比率だけで判断するわけではありません。同居の有無や介護への貢献度なども総合的に考慮します。あなたが長年同居して介護を担っていたのなら、『この保険金は不公平な利益ではなく、親への貢献に対する正当な対価である』と主張し、持戻しそのものを否定して争うことができます。」
方法②:生命保険金は「遺留分の対象外」だと真っ向から主張する
弁護士:「実はもう一つ、法律構成から反論する方法があります。別の最高裁判決(平成14年)では、死亡保険金は実質的に被相続人の財産に属していたとはいえず、遺留分の対象にならないと判断されています。この考え方を援用し、『遺産分割上の公平のために持戻すとしても、遺留分の計算基礎に保険金を入れるのは誤りだ』と主張するのです。これが通れば、次男さんの遺留分は遺産500万円をベースにした125万円となり、すでに500万円を取得している次男さんからの請求を退けられる可能性があります。」
| 以上の分析を前提として、弟さんとよくよく交渉することが問題解決のための最善の措置になると思います。相続問題は複雑化、長期化するおそれが多分にあるため、速やかな問題解決を図る意識を持つことが何より重要です。裁判所に頼ることなく、進められる弁護士に依頼することをおすすめします。 |
【ミニコラム】裁判所の判断基準を定めた重要判例(最高裁平成16年10月29日決定)
本編で解説した「持戻し」に関するルールを明確にしたのが、この最高裁決定です。
■ 事件の概要
共同相続人の1人が受け取った約574万円の死亡保険金が、特別受益として持戻しの対象になるかが争われました。
■ 最高裁が示した判断基準
死亡保険金は原則として「遺贈や贈与」には当たらないとしつつ、共同相続人間に「到底是認することができないほど著しい不公平」が生じる「特段の事情」がある場合に限り、例外的に持戻しの対象になるとしました。
■ 「特段の事情」の考慮要素
裁判所は以下の要素を総合的に考慮して判断すべきとしています。
■ 実際の判決の結果
この事件では、保険金を受け取った相続人が親と同居して介護を手伝っていたこと、他の相続人も一定の財産を取得していたことなどが考慮され、最終的に「特段の事情があるとはいえない」として持戻しは否定されました。 単なる金額の多寡だけでなく、生前の貢献や背景事情が結果を左右するという点が非常に重要なポイントです。
| 争点とシナリオ | 計算・判断の根拠 | 長男の取得額 | 次男の取得額 |
| 1. 遺産分割の場合(保険金を「持ち戻す」か) | 「特段の事情」あり(持戻し)保険金が遺産に比して高額すぎるため、特別受益に準じて遺産に加算して計算する。 | 保険金 3000万円(遺産からは0円) | 遺産 500万円(遺産全額を取得) |
| 2. 遺留分の場合(保険金を基礎財産に入れるか) | 【次男の主張】入れる持戻しの対象である以上、遺留分算定の基礎財産(3500万円)にも含めるべき。 | 3000万円 – 375万円= 2625万円 | 500万円 + 375万円= 875万円 |
| 【長男の反論】入れない判例(H14.11.5)に基づき、保険金は遺留分の対象外。基礎財産は遺産500万円のみ。 | 3000万円(請求を退ける) | 500万円(遺留分は満たされている) |