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離婚後共同親権について実務の立場からの検討
離婚後共同親権とは?
離婚後共同親権とは、「離婚後においても父母の双方が子に対する親権を持つこと」をいいます。
現在、法務省が共同親権の導入の是非を検討しています。共同親権の導入の是非について、実務の立場から検討したいと思います。
<単独親権であるの問題点>
共同親権の導入が検討されているのは、現在の民法で採用されている単独親権制度に問題があると言われているからです。
例えば、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアなどの国では、離婚後も共同親権が原則とされています。日本が単独親権制度を採用することは、必ずしも一般的ではないということになります。
それでは、単独親権について何が問題かを検討します。
①ほとんどの場合母親が親権を取得している
離婚後に母親が親権を取得する割合は、80%程度だと言われています。
父親と母親が親権を争うこともありますが、現実に監護をしている母親が取得するケースが多いです。母親と父親、どちらも親権者として子ども関わっていきたいと考えているにも関わらず、一方しか親権を取得することができないのは不合理であると言えるでしょう。
②養育費の不払いなどにより母子家庭が経済的に不安定となっている
親権を取得した母親のうち、養育費の支払いを受けている家庭は、全体の30%を下回ると言われいます。母親が、子どもを育てながら、仕事をする一方で父親からは経済的な援助が受けられないのが実態です。
養育費の支払いについて、弁護士に依頼し、養育費分担調停などを申し立てることにより、一定の養育費の支払いを受けることができますが、現実にはそこまでたどり着けていない母親が多いです。
③面会交流が実施されず子どもが父母からの愛情を感じられない
単独親権であることから、親権を取得しなかった方の親は、面会交流によって子どもと会うことになります。しかしながら、親権を取得した親の都合で子どもと会わせない例や、逆に親権を取得しなかった子どもと会おうとしない例があります。このような場合に、子どもは、親からの愛情を感じることができず、自己肯定感を否定されるような気持ちになる場合も多いようです。
<共同親権となった場合の利点>
①父母ともに養育監護権を持つ
父母ともに養育監護権を持つわけですから、どちらか一方が負担を引き受けることにはなりません。片方の親の経済状況や心身の状態が悪い場合に、もう一方の親が面倒を見ることなどが可能となります。
②養育費の不払いなどが減少する
双方の両親が、子どもの養育監護に主体的に関わることになりますから、養育費の不払いなどはしにくくなるでしょう。
③面会が頻繁に実施される
子どもとの交流は主体的に実施されると思われます。子どもは、両親の離婚という問題と、自分への愛情を分けて理解し、両親から愛されていることを実感し、自己肯定感を高めることが期待されます。
<共同親権となった場合に想定される問題点>
共同親権となった場合には、父母の双方が親権を持つわけですから、子どもの養育監護については、通常は話し合って決めて行くことになります。双方が子どもの養育に責任を持つことは望ましいことではありますが、婚姻関係が破綻した父母が子どもの養育監護については冷静に話し合いができるかどうかについては疑問が残ります。離婚後の父母が共同親権を持つことで、返って子どもために良くない結果となることもあるでしょう。
<私見>
共同親権については、導入の可否を検討している段階であり、問題点の克服が可能かどうかは見通しが立っているわけではありません。しかし、単独親権に問題がある現状を踏まえると、共同親権とした上で、問題が生じた際には、家庭裁判所などを通じて問題解決をしていくこともあり得る選択肢ではないかと思います。
昨今の複雑化する家庭事情を鑑みると、両親の問題によって心身ともに未発達な子どもが過度な心理的負担を受けることを出来る限り防ごうという視点は、どの制度をとるにせよ重要です。両親の結婚・離婚という問題と、親子の関係とはまったく別の問題であると思います。どのような状況にあっても、子どもが両親から愛され、両親にとってかけがえのない存在であることを実感できるような配慮が必要だと思います。
以 上
伊藤